舞台「戦争と一人の女」メモ①




春一番が吹いた日、坂口安吾の命日であった。


私はその日、脚色・演出の上田晃之と共に、今回の公演の題字を揮毫いただいた
雪妃さんの個展(2/22迄)を観に行き、帰路に着く。



私は当たり前のこととして電車にのり最寄り駅へまで電車に身を委ねる。
電車の中は、多少込み合ってはいるが、個人の自由が阻害されるほどの込みようではなく、
私は座ることは出来なかったが、私の自由によって、本を読んだ。
本の世界に入っていく。
他の乗客の存在は消えていく。

今自分がどこを通り、どの駅を通り過ぎていっているかは、気にしていない。
メトロに於いては特に、路線と地上地図が私の中で照らし合わされておらず、
気にするも何も、認識していない。
ただ自分の最寄の駅へ向かっているであろうことを信じて疑わず。
電車に身を委ねている。

電車を何度か乗り換える。
ただただ、案内と朧な記憶に従い、漠然と私は電車を乗り換え、
また電車に行き先を委ねる。

それは、最寄り駅の前の駅を出発して、間もなくであった。
運転手の運転ミスなのか否か、突如電車が強く揺れ、
乗客が一斉にドタりと重くつまづく。
その時、私の中から消え去っていた乗客たちが立ち現れ、
私は驚きと共に、背筋を凍らせた。

私はあまりにも無自覚に、電車に身を委ね、
誰とも知らない人々と共に、運命を何者かに預けている。
かりそめの自由は、電車の揺れによって、幻想であることを突きつけられ、
私は次の駅までに激しい拘束を感じた。

否応もなく私は運ばれている。
走る電車から飛び降りることも出来ず、
ただ私の運命を委ねるしかない。
もし次の駅が私の降りる駅でなかったら、
私はどうするのだろうか?
私には電車を止めるブレーキも、走らせるアクセルも持ってはいない。
たとえホームに降りられたとしても、駅が違えば、
私はまた無自覚に電車に乗り、個人の自由というようなものを貪るだろう。
そもそも私は自分の降りる駅を、電車のアナウンスなしに知ることが出来るだろうか?
私の駅・・・

ひとりびとりが立ち現れている。
その誰とも知らない、ひとりびとりを、
私はただ気配として感じている。
注視はしない、いや、する氣力がないのだ。

「ひとりびとり」の濃度が薄れていく。
茫漠とした「ひとりひとり」は「ひとびと」となり「ひとひと」になり
オノマトペへ回収されていく


私はうろたえながら、自分に問うている。
私は電車から降りる勇気があるだろうか?
または、乗らないという選択肢を知り得ているか?

電車はもう動き出している。
どうやら、乗らないという選択肢を持ち得ないまま、
私は電車に乗っている。
行き先の分からない電車に乗っている。

過ぎた後の線路を眺め、

行く先の線路を眺める。
雲行きはあやしい・・・
その鈍く重い感覚は確かに感じられる。







私は辺見庸氏の「1★9★3★7」(イクミナ)を読んでいる。
1/30日に辺見さんの講演会があり、その時にご本人と握手をし購入した文庫本だ。
その握手をした際に、去年の3/12に行った自身のイベント「5years」において、辺見さんの「瓦礫の中から言葉を」がなければ、私の表現はなかったことを簡潔に説明し、御礼をいうことが出来た。
そして、辺見さんの握手は、なんとも力強かった。
半身麻痺で癌も患い、目もずいぶん悪くなり、サインも出来る状態ではない辺見さんの握手には活力があった。
力強い、活力があった。

今年も辺見さんの「1★9★3★7」を一つの地図として、深く潜って行こうと思う。

「1★9★3★7」のことも書こうと思ったが、また別の機会にしたいと思う。






プロフィール

Yasuchika

Author:Yasuchika
YASUCHIKA
舞踊家・俳優(+生躰研究家)


1999年より俳優を始め、2003年より踊り始め、2004年より、死んだら消える文化的かつ野性の身体観、生命観を学び始め、そのチカラを基とし、また蘇生させることを伴いつつ芸術表現へと転化させている。
2009年パフォーマンスグループKIUNJI(キウンジ)を立ち上げる。(2014 年より芸術企画として活動)
また2013 年より生躰研究家として「生きてるってどういうこと?」(=生因)や響命する身体を軸とし、身の持つ自然のチカラを活性させるワークショップや稽古会を行っている。
2017年9月舞踊家としての生前葬をソロ公演で行い、YASUCHIKAと改名し新たなスタートを切る。
また生躰研究家 金野泰史として「身体との付き合い方WS」も定期的に開催している。

このサイトでは、舞踊家・俳優 YASUCHIKA、【KIUNJI】企画の公演情報や自身のステイトメント、また生躰研究家としての身体観や考え方をブログ形式でお知らせします。


生躰研究家 金野泰史 稽古会 WorkShop(or lesson )案内はこちら


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